FUKUROKO-JI

興味をもった人にインタビューしたり、音楽について書いたりするブログです。Mail : fukurokojimodame@gmail.com

ウワノソラ インタビュー #4

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奈良のレコード店「ジャンゴ」にて。左のお2人は、店主の松田さんと常連のお客様。

 

男女間の温度差というか、お互い好きなんだけど微妙にすれ違ってぎこちなくなる感じが、このアルバムの歌詞を書いている時は好きだった(角谷)

 

──『ウワノソラ』オープニングを飾るのはアップテンポな「風色メトロに乗って」ですね。

 

角谷:サビはシュガー・ベイブとか、アイズレー・ブラザーズとか、ブラック・コンテンポラリーみたいな'70年代のソウルの泥臭い感じを出しつつ、でもアップテンポな感じというのを意識しました。間奏はちょうど曲作りの時に聴いていたフィットネス・フォーエヴァーというイタリアのバンドのアレンジをイメージしながら作りましたね。とにかくブラスとストリングスを入れて華やかな感じにしたかったんです。

 

──「摩天楼」は作詞・作曲が両方桶田さんですね。

 

桶田:アレンジはさっきも言ったとおり角谷さんに聴かせた段階で少し変わったんですけど……。

角谷:もともと高校生の時に作った曲なんだよね。

桶田:そうです。高2の時に作ったんです。

 

歌詞には“摩天楼”とか“シティ”とか、“ビルディング”といういかにもシティ・ポップを連想させるフレーズが入っていて、少し驚いたんです。というのも、桶田さんの地元(奈良の地方)には、恐らくそういう景色はないじゃないですか。

 

桶田:大阪の石切とか、奈良の生駒とかによく行ってて、そこで大阪の布施から生駒に抜けたときに石切周辺で観た大阪のビル群がすごく印象に残っていたんです。僕は実体験とかを歌詞に入れるのはあまり得意じゃなくて、創作、0から別のものを作りたいって。だから、田舎に住んでいながらそういう歌詞になったんです。

 

創作にしても、実際に見た風景がきっかけになっていると。次が「さよなら麦わら帽子」。

 

角谷:これは桶田くんが最初にデモを持ってきてくれて。

桶田:すごいバラードで(苦笑)。

角谷:1拍目と3拍目に音の韻があって、それが結構フォーキー、歌謡曲な感じがしていて、もうちょっと垢抜けさせたいなと思ってBPMを上げてみたんですよ。1拍目と3拍目に音の韻があると音頭みたいになっちゃうから裏に持ってきて、音数をすごく増やしてみたり。サビはほぼ山下達郎さんの「ピンク・シャドウ」。ブレッド・アンド・バターのカヴァーをした山下達郎さんのイメージなんです。コード進行も高校を卒業してすぐ聴いていたジェイソン・ムラーズとか、ああいうカリフォルニアの感じ、西海岸の感じを入れたかったんですよね。歌詞はフェニックスの「If I Ever Feel Better」の逃避行感というか、センチメンタルな方に持って行きたかったのがあります。最後は毒ついちゃってるんですけどね。

 

「マーガレット」は桶田さんがギターを弾いている唯一の曲ですよね。角谷さんはソロらしいギター・ソロを入れるのに対して、桶田さんはメロディーに寄り添う感じの、目立たないソロ・プレイに徹している印象です。

 

桶田:ギターで聴かせる、リフを弾いて前に出るというのをあまりカッコイイと思わないフシがあって。だから効果的にそれっぽい音を入れてみたんです。

 

──なんかキリンジの堀込高樹さんっぽいなと思ったんですよ。

 

桶田:ああ、キリンジは高樹さんの方が好きですね。でもその時はあまりそういうことを考えていなくて、とりあえず早く録らないとっていうのがあったんで。1~2時間で録っちゃいました。

角谷:すごく味があって僕は好きだな。

 

「ピクニックは嵐の中で」は、途中で男のリポーターで台風の中継が入るじゃないですか。初めて聴いた時、雨を浴びる男というのが、女の子にすごく怒られているっていう比喩じゃないのかなと考えちゃったんですよ。

 

一同笑

 

──だからレタスは嫌いって知ってたのにサンドイッチに入れたのかなって。

 

角谷:聴かせた人からは「嫌いなのにレタス入れんなよ!」っていう感想が多かったですけどね(笑)。歌詞はそれぞれ聴く人の解釈があるので深く解説しませんけど、男女間の温度差というか、お互い好きなんだけど微妙にすれ違ってぎこちなくなる感じが、このアルバムの歌詞を書いている時は好きだったんですよね。

 

──その感じがすごく「うわのそら」ですよね。アルバム名も「ウワノソラ」ですし。

 

角谷:この曲は完全に異世界の感じなんですよね。トッド・ラングレンとかビーチボーイズ、ベニー・シングスとか。ギターの感じはティン・パン・アレイをイメージしたり。

 

ここから後半ですが、「現金に体を張れ」だけはアルバムの中でもすごく世界観が違うじゃないですか。

 

角谷:これはもうスタンリー・キューブリックの同タイトルの映画を見たのがきっかけですね。リズムの元ネタがシュガー・ベイブの「SUGAR」、キリンジの「汗染みは淡いブルース」とか、スティーリー・ダンやマルコス・ヴァーリなんです。シンコペーションで進んでいくというリズムが面白いなって。

 

──というと、リズムにつられてできていった曲ですか?

 

角谷:そうですね。言葉遊びとかもしましたし。結構偏見混じりの歌詞になっちゃってるんですけど、登場人物がそういう感じなだけで、僕らは全然……あ、これ守りに入ってるな(笑)。

 

──作曲のお2人とも、曲を作る時にはリズムからイメージが出てくる?

 

角谷:僕はそうですね。アルバムでアップテンポになりすぎても駄目だし、波があるのがいいかなって。そういう意味でどんな曲がほしいか考えます。桶田くんのがパッと提示されたときに、それなら僕はどういう風にしたらいいだろうって。

桶田:僕はリズムとメロディどちらから作るというのはないですね。リズムで言うと、その時の気分に比例してBPMが変わります(笑)。

 

──歌詞が先かメロディが先かなら?

 

角谷:僕は今回は歌詞が先ですね。

桶田:「摩天楼」に限った話になりますけど、どっちも同じようにできていきました。

 

7曲目の「ウワノソラ」なんですが、この曲を1曲目に持ってくることは考えなかったですか? と言うのも、コーラス・アンサンブルがメインの曲なので、最初に聴いたときにブライアン・ウィルソンの『Smile』の冒頭(「Our Prayer」)が連想されちゃったんです。だから、曲作りの元ネタように、アルバムの組み立てもそういう所から持ってくるとか……考え過ぎですかね。

 

角谷:僕も曲作りのときにちょうどそれを聴いていて、確かに最初は「ウワノソラ」を1曲目にしようと思っていたんですけど、並んだ時の抑揚とかを考えて、インタールード的に挟んだ方がいいんじゃないかなと思ったんです。コーラスの食ってる所はブライアン・ウィルソンから持ってきていますね。

 

「海辺のふたり」では、「現金に体を張れ」でも聴けたような印象的なギター・ソロが入ってます。角谷さんは積極的にソロを入れてますよね。

 

角谷:もともとフュージョンが好きだったというのもあるんですけど……。

 

──「俺にソロを弾かせろ!」みたいな?

 

角谷:いや、できれば弾きたくないんです。ここにギター・ソロがあった方が気持ちいいよなって。でも肝心の引き出しがあんまりないんで、「現金に体を張れ」はサンタナみたいになっちゃったんですけど。

 

そういう風にできること自体が引き出しだと思います。次の「おやすみハニー」は歌に関してお伺いしたいのですが、他の曲は割とフラットに歌っているイメージなのに、これだけ特別感情が入っているような気がしたんです。

 

いえもと:メロディがそう感じさせたんだと思うんですけど……なんですかね(苦笑)。言葉の事を考えて、できれば感情が伝わるようにと思いながら歌っているんですけど、なかなか……。自分で聴いていても、なんだかあまり感情が入っていないように聴こえるっていうのが昔からあって、そういう風に聴いていただけたのは、やっぱりメロディだと思います。特にこの曲だけ感情的に歌ったというわけではないです。

 

──他の曲も、あえてフラットに歌っているというつもりはない?

 

いえもと:ないですね(笑)。

 

──意識して声色を変えたりというのは?

 

いえもと:イメージに合うようにとは思っているので、そういう意味で変わっているかもしれないですね。作詞者からしっかりとしたイメージをもらっているわけでもないですけど、自分が聴いた上で歌いたいようにと最終的に言われるので。ヴォーカルもデモで角谷くんが歌っているのを聴いて、「こういう風に歌って欲しいのかな」というのを少し考えて歌っていました。

 

なるほど……。ラストは「恋するドレス」。僕はこの曲をYouTubeで聴いてウワノソラを知ったんですが、そのときに歌声にすごく引っ掛かりがあったんです。こういう曲って一十三十一さんとかユーミンみたいに、とんでもなく歌がうまい人がさらっと歌っているイメージだったんですけど、さらっと歌おうとしていない感じというか。

 


ウワノソラ - 恋するドレス - YouTube

 

いえもと:「恋するドレス」は一番難しかったですね。歌いにくい部分もあったし…フフフ(笑)。でも、基本全曲難しかったですよ。歌をやってる友達からも「難しそうやな」って言われましたし。

 

──その感じがすごく魅力的に聴こえたんだと思います。あどけなさというか。

 

角谷:確かにそうかもしれないな。

 

ウワノソラを知ったときに奈良県出身のお2人がメンバーというのを見て、「奈良のバンドなんだ」って思っちゃったんですが、歌詞を見ると“海”とか“風”がすごく出てくるので、「奈良って海ないんだけどな」って違和感があったんです。それは神奈川、横浜に住んでいた角谷さんのエッセンスがかなり詞に影響していますよね。

 

角谷:どうかな。でも海は好きだったんですよ。風とか、そういう漠然としているものが……。

桶田:扱いやすい?(笑)

角谷:扱いやすい(笑)。

 

─最初はこのインタビューを公開するときに「奈良のバンド」って言い切っちゃおうと思っていたんですけど、そういうのを見るとあくまでメンバー2人が奈良出身で、関西でバンドやってるよって捉えた方がいいのかなと思ったんです。みなさん「奈良」って言われることに違和感あったりしませんか?

 

いえもと:別にどこでも……(笑)。

角谷:やりにくさとかは全然ないですし。

桶田:自分たちから公言したことはないし、まず奈良で活動をしていないですから、名実ともに、というわけではないですね。でも言われることに違和感はないですし、かと言って自分たちでそれを売りにするつもりもない。別にどこでもいいんです(笑)。

 

 

【2014年9月2日、奈良市内にて。】

 

 

 

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 「ジャンゴ」店内にディスプレイされたレコード/CDの大半には、店主の松田さんが記したコメントカードが添付されている。広くシティ・ポップ周辺の音楽が好きな人にぴったりの品が揃っているので、ぜひ一度店頭へ伺ってみてほしい。また、当日松田さんとお客様から『ウワノソラ』に対するコメントをいただいたので、以下に掲載する。

 

 

「ジャンゴ」松田さん

 あまり批評家的なコメントはできないんですが、新人で学生さんが居るバンドとは思えないクオリティですよね。アレンジもセンスがいいし、歌声もいい。名曲率が高いのもいいですよね。演奏力もすごく高いですし、なかなかデビュー盤とは思えないんですよね。

 今はあんまりレコードを聴く人がいないですけど、京都とかにはまだそういう文化が残っているので、そういう所だとすごく目を引きそうですよね。奈良在住の人がいる、こういうバンドが出てきたのはすごく嬉しいです。

 WebVANDAでも絶賛されていましたけど、あれだけ知識ある方にああいう風に書いていただけるというのはすごいですよね。批評しているというよりは、もう興奮したまま書いている感じでしたね。そうさせる魅力があるんだなあ。

 最近は5曲目の「ピクニックは嵐の中で」とかも気に入っててね、最初はやっぱり1曲目の「風色メトロに乗って」とか「恋するドレス」に気持ちが行くんですけど、聴いているうちにどんどん他の曲の良さに気付くんですよ。本当に'70年代の感じがあるよね。若い人がやっているとは信じられない。

 

お客様

 サウンドクラウドで最初に聴いた時からいいなと思っていて、「Umbrella Walking」を聴いてまたすごく良くなってると思ったら、「恋するドレス」を聴いて天才や! って。最初はある程度まとまっている感じだったのが、最近どんどん幅が広がっていってて。いえもとさんのファルセットもすごい、夢見るような切ない感じが共存していてたまらん! って。

 

 

#1 #2 #3 #4

 

 

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 ウワノソラ Official Web Site(http://uwanosoraofficial.wix.com/uwanosora