FUKUROKO-JI

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桶田知道 インタビュー #3

 

こんな曲聴いたことない、桶ちゃんこんなことできるんや、って(いえもと)

 

──『歳晩』は『あそび』(ライブ会場と通販で販売したデモCD-R)に収録されていた、もともといえもとさんのヴォーカルの曲だったんですが、今回は桶田くんがヴォーカルになっていますね。

 

桶田:そのまま流用するよりは、僕のヴォーカルでやったほうがいいかなと思っただけで、特に深い意味はないです。

 

──他にも『モーニング』『チャンネルNo.1』でも桶田くんが歌っていますが、これも今回のアルバムでびっくりした点なんです。ウワノソラではリード・ヴォーカルはいえもとさんだったじゃないですか。今回桶田くんが歌おうと思ったことには何か理由があるんですか。

 

桶田:歌えたらカッコいいじゃないですか。笑 いえもとさんもウワノソラとか’67で歌ってきたのと同じ気持ちでは歌えなかった、というか僕の曲とか歌詞を知ったときにちょっと困ったと思うんですよね。

 

いえもと:まあ、何コレとは思った。フフフ

 

桶田:このプロジェクト自体も、もともといえもとさんをヴォーカルに立ててというプロジェクトだったんですけど、僕の名前のソロということになったので、歌おうかということですよね。可能ならばもっと自分が歌える曲があればよかったんですけどね。もし次があるなら、そのときはどうなるかわからないです。

 

──今回はとりあえず歌えたらカッコいいかなという理由で。

 

桶田:というのもありますし、何曲かは僕が歌ったほうが上手くハマるかなというのがありました。『モーニング』『チャンネルNo.1』に関してはハナから自分で歌うつもりで作ったんですよ。

  

──これまでウワノソラにおいても桶田くんが作る曲というのがあまりなかったというのもあるけど、改めて桶田くんの歌詞を読んでみると角谷くんとは切り口が全然違いますよね。

 

桶田:切り口は勿論変わってくると思うんですけど、わかりやすい違いとしては「視点」の部分なのかなと思っています。これは角谷くんから言われて気づいたんですけど、僕の歌詞は、特に意識したわけではないんですけど、一人から見た“主観”的なものっていうのがあまりないんですよね。主人公がいても、それを俯瞰しているものが多くて。感情の動きというか、心の中で動くものっていうのが見えない、あくまで景色の中の人間の動きを観察しているような感じというか。

 

──角谷くんが映画的というなら、桶田くんは小説的ですよね。さっきの起承転結を付けたいという話があったけど、どの曲もラストがぼんやりしている印象で。映画って結構しっかりオチがついているけど、純文学ではぼんやりしていることも多い。

 

桶田:歌詞という短い文章の中で「結」の部分をぼんやりさせたり、含みをもたせるというのは、文章としては少し不親切なのかもしれないですけど、メロディに乗せるという前提だからこそ様々な印象を持たせることができると思うし、歌詞とメロディの相乗効果で受け取る側の印象も多様化すると思うんです。僕自身、そこが歌詞の醍醐味だと思っています。だけど今回のは歌詞だけだと全曲後味悪いですよね。

 

──たしかに『チャンネルNo.1』までの6曲は後味悪いですけど、その後は全然後味悪くないですよ。『チャンネルNo.1』までは全部救われない話じゃないですか。

 

桶田:ハハハ そうですね。

 

──『チャンネルNo.1』までは、架空の物語のコンセプトが出来上がった世界観なんだけども、以降の3曲は桶田くんが主人公になっているという印象なんです。歌詞の内容としても救いがあるから、アルバム全体を通して聴くと、途中まではたしかに暗いんですけど、結果として晴れやかな気持ちになるというか、不思議な感覚がしました。

 

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──いえもとさんは先ほど桶田くんの曲を聴いて驚いたと言っていましたが、実際に歌ってみて歌いにくかったりはなかったですか?

 

いえもと:何か、あんまり歌ってきたことがないというか、曲自体を初めて聴いた時に「こんな曲聴いたことない、桶ちゃんこんなことできるんや」っていう驚きがあったんです。これはすごくいい意味なんですけど。それで練習しているうちに、どう歌ったらいいんやろうっていうか……全体的には無機質な方がいいなって思ってはいたんですけど、歌ってると桶ちゃんの仮歌の方が良かったんじゃないかなって悩んだときもあったし。

 

桶田:ありがとうございます。笑 普段は全然、僕のことなんか褒めてくれないので。

 

いえもと:褒めてるやん。笑

 

──初めて褒められましたか。

 

桶田:こういう、インタビューって若干フォーマルな場所じゃないですか。

 

一同:笑

 

桶田:そういうところで褒められるというのがね。

 

いえもと:なんでやねん、そんなことないやろ。笑 でも「この曲はAメロとサビが二重人格でいい」とか、指示があった曲とかもあります。

 

──もう少し具体的な指示を出したりしました?

 

桶田:歌い方のニュアンスが大きいんですけど、3曲目の『誰も知らない』は展開で歌い方がガッと変わるんですよね。最初は可愛く歌ってもらって、Bメロに入ったら突然暗く歌ってもらうとか。特に深くは考えてないんですけど、メロディの起伏であったり流れであったりに合わせたりしました。アルバム前半は後味悪い系の曲ばかりで、ヴォーカルにすごくエフェクトをかける前提でやっていた部分もあるので、歌い方も1曲通して歌い上げるという感じではなく、細かく刻んで録りました。ライブで再現するということを考えずに作っているので、曲によってはある種ギターとかピアノとか、そういう楽器の1つとして歌を捉えるということもありました。

 

いえもと:レコーディングしながら「こういう方がいい?」って相談しながら。

 

桶田:ボーカルのことをあまり考えずに曲を作ってしまったので、もしかすると非常に歌いにくい曲ばっかりだったかもしれないです。僕も実際にいえもとさんの声が入ってみないとわからない部分もあったし、明確にどういう歌い方が正解かというのがなかった。だから、歌い方という点で別にこだわりはなかったです。いえもとさんの普段の歌い方でこういうものになった、という。

 

──やっているうちに、曲にハマる歌い方を見つけていく、という感じですか。

 

桶田:そうですね。歌詞の中で感情的な言葉は使っていなくて、人間の温度的なものがあまりないんです。さっき言ったように主観ではなく俯瞰視点な表現が多いからというか、状況が先に伝わるようなイメージですよね。どちらかというとオケに合わせることが優先だったので。

 

──いえもとさんはそのやり方に違和感はなかったですか。

 

いえもと:そうですね。全体的にキッとしたというか、強い……なんというか、柔らかい感じではなかったから。歌詞をもらったときに、知らない言葉が多くていっぱい調べて、へえと思って勉強しながら。笑

 

──そういった難しい言葉を含めて、今回の歌詞で使った言葉はどこから出てきたんですか。

 

桶田:すごく味気ないですけど、Weblio辞書なんですよね。要は例えば九夏なんて典型的なんですけど、最初に猛暑で調べて、その類語に九夏が出てきた、みたいなパターンは結構多かったですね。あとは『陸の孤島』に出てくる皮下脂肪とか、言葉自体は知っているけど、実際に会話の中で使うかと言われると使わないような、突然出てくるとギョッとする言葉は入れたかったんですよね。

 

──“腹這うとかもそうですよね。

 

桶田:腹這うキリンジ(『地を這う者に翼はいらぬ』)からですけどね。腹這いのララバイですから。いいダジャレやなって。

 

──やっぱり、そうだと思いました。キリンジの名前が出たので伺いますが、今回の『丁酉目録』を作っている時に、どんな音楽を聴いていましたか?

 

桶田:一番新しいキリンジの『ネオ』と、ムーンライダーズ全般。そこから派生してXTCとかですね。ゲームのサントラとかも聴いていましたね。戸川京子戸川純の妹)のアルバム買ったりとか。細野(晴臣)さんと(高橋)幸宏さん、コシミハルとか、あの辺りを聴いていましたね。今回のアルバムのサウンドで反映している感じはないんですけど。

 

──いえもとさんは歌入れの際によく聴いていたアルバムはありますか?

 

いえもと:ええっ! なんやろう。

 

──特に意識していなかったですか。

 

いえもと:歌入れに関して参考にした、とかそういうことですか?

 

──そうです。そういうのは全然なかったですか。

 

いえもと:こういう風に歌おうとか、そういうのは全くない。

 

桶田:もともと、いえもとさんにはそういう感じはないですよね。

 

──前のインタビューでもそうおっしゃってましたよね。今回のアルバムはこれまでの曲とは違う部分が多いから、何か変わるところがあったかと思ったんですが。

 

桶田:意識し始めるとあんまりよくなかったりしますから。例えばウワノソラがウワノソラたりえるのは、いえもとさんの変わらないスタイルであったりしますし。こういう感じのジャンルだから、そういう歌唱スタイルで、っていうのは良い場合もありますけど、そのグループそのものを好きな人からすると、やっぱり変わらない方がいい。それが魅力になっているという部分はあると思うんですよね。

 

──いえもとさんは若干気恥ずかしそうな、嬉しそうな感じで聞いていますが。

 

いえもと:フフフ。

 

──発音が難しい部分はなかったですか? 一つの音にダダっと言葉を詰めるのは、これまでウワノソラにはなかったですよね。

 

桶田:デモを渡したときにうまく意思疎通ができていなくて、いえもとさんが僕の意図とは違う言葉のハメ方をしていたことがあったんです。そもそもメロディが違ってるとかもありましたけど、そういうのは修正した部分もあるし、いえもとさんのが良ければそちらに合わせたりしました。そもそも僕の仮歌がひどかったというのもあると思うんですが。笑

 

いえもと:一番難しかったのは『誰も知らない』でした。滑舌があまり良くないのに、1行目から言葉が詰まってるから。

 

桶田:『誰も知らない』はもともとメロディだけが先にあって、メロディと文字数とを合わせて歌詞を考えるとああいう感じになりましたね。難しいとは思ったけど、ヴォーカリストやったら歌えるでしょうって感じで。笑 申し訳ございませんでした。笑

 

 

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